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人間らしく生きるための緩和ケア

千里ペインクリニックの院長、看護師長をはじめとする皆様には大変お世話になりありがとうございます。短い期間でしたが、充実した日々を送れましたこと本当に感謝します。

 私の母は2012年の年末にすい臓がんが見つかり、2013年の4月に手術をしました。すい臓がんの治療の中心は手術で、すい臓にあるがんを摘出するのが最善の方法と事前説明を受けていましたが、術中の検査で広い範囲に浸潤していることが分かり、すい臓全体の摘出となりました。またすい臓の全摘に伴い、胃や十二指腸、胆のうなど多くの臓器の全摘にもなり、術後は胃がないために、見ている家族が辛くなるほど母は壮絶な日々を送っていました。それでも母は食べることを諦めず、食べては吐き、吐いては食べるの繰り返し。どんなに辛い時でも「がんになったのも、今こうして生きているのも意味がある。生かされているのだから、命を無駄にできないね。とにかく自分のできることをするだけ」と常にがんと正面から向き合い、いかに人間らしい通常の生活を送るかをけっして諦めることはありませんでした。そのような母の姿は、私たち家族に生きることの意味と、人としての強さと勇気を考えさせるものでした。一喜一憂する日々の中で「死ぬことを怖がるより、どう生きるかを考えよう」これが私たち親子の合言葉になっていきました。

 ホスピスや緩和ケアと言ったワードは、近年よく耳にするようになりましたが、その言葉は本当の意味で理解されていないように感じます。ホスピスや緩和ケアは、一般的にはがんの終末期にかかるものと言ったマイナスイメージが強いようですが、緩和ケアはけっして“終わり・最期・死”などのマイナスのものではありません。緩和ケアは、生きるためのものです。緩和ケアの定義は、“生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対するケア”となっています。“1.痛みやその他の苦痛な症状を和らげる2.生命を尊重し、死を自然の過程と認める3.死を早めたり、引き延ばすことは意図しない4.患者ケアにおける心理的側面とスピリチュアルな側面を統合する5.患者が最期まで人生を生き生きと、できるだけ活動的に生きることを支える6.家族に対し、患者の闘病中や死別後の生活に適応できるように支える7.チームアプローチを用いて、患者と家族のニーズに対処する8.QOL(生活の質)を高めて病気の過程に良い影響を与える9.疾病の初期から、化学療法や放射線療法などの他の延命を意図する治療と併存の適用可能であり、治療に伴う副作用の緩和も行う”など、患者とその家族に対して苦痛の予防と緩和で生活の質を改善するアプローチこそが、緩和ケアの本当の意味です。このような本当の緩和ケアを、母と私たち家族は千里ペインクリニックで受けることができました。

 千里ペインクリニックで受診するまでは、母は手術をした広島の病院で受診をしていました。術後の1年目は身体が対応せずに壮絶な日々を送っていましたが、その後は主治医も母の希望をなるべく受け入れた治療をしてくれていたので、次第に体力も回復し、精神的にも安定した日々を送っていました。しかし4年目が過ぎた頃にがんが転移し、併せて主治医も変わり、体調が悪いとすべて「がんだから仕方がない」と言われるようになりました。「がんだから仕方がない」医者から発せられるこの言葉は患者の生きる希望を奪い、絶望に叩き落される一言です。確かに仕方のないことかもしれません。ですが、その仕方のない状況下でも小さな希望や光を見つけて懸命に生きようとする人間もいるのは事実です。私の母がそうでした。絶望の中でどうにかして人間らしく生きる光を見つけようと、家族で模索する中、偶然にも千里ペインクリニックに出会ったのです。

 千里ペインクリニックは、患者だけでなく家族にも真剣に向き合い寄り添ってくれます。それは私が最初に面談に行った時から感じたことです。広島の病院からの紹介状を鵜呑みにし、事務的処理をするのではなく、患者と家族がそれぞれ何を思い、何を望んでいるのか、発病から現在に至るまで、身体だけなく心の状況までも目を見て細かに聞いてくれた上で、今後どのように過ごすか治療方針を考えてくれました。在宅での治療がスタートしてからも、母の目線に合わせて今できる最善のアドバイスをしてくれたおかげでしょうか、広島では主治医の一言で心が折れそうになり、生きる希望を失いかけ、辛く苦しい日々を送っていた母の様態に変化が出始めたのです。それまでは食事をする気も起きずに、「食欲も出ない、何を食べても美味しくない、匂いも分からない、身体も重く冷え切っている、痛くてゆっくり眠ることもできない」と言っていた母に食欲が戻り、「良い匂い」「暖かくて気持ちが良い」「痛みが和らいだ」「ゆっくり眠れた」など、人間らしい生活と感情、そして「千里ペインクリニックの人たちに感謝だね」と笑顔を取り戻したのです。その母の姿は、私たち家族にも幸せな時間になりました。まさに、患者と家族が人間らしく生きるためのケア、身体と心の緩和ケアです。千里ペインクリニックの方々のおかげで、人生の最期を感謝と笑顔で迎えることができた母は幸せだったと痛感しています。ただ、もっと早く緩和ケアを理解し、千里ペインクリニックで受診していれば、母は安らかで幸せな時間をもっと長く過ごすことができたのではなかと、それだけが心残りです。

 まだまだ浸透していない緩和ケアですが、本当の意味での緩和ケアが広がりますように。母と私たち家族が安らかで幸せな時間を過ごせたように、一人でも多くの方が人間らしく生きられますように。